スポーツ選手におけるEMSを利用したトレーニングの効果

高輪で鍼灸治療院を開いている今野です。

自身が元競泳選手ということもあり、アスリート専門の治療院となっております。

一般的な治療院との違いは、痛みを治すことや硬い部位を緩めるだけではなく、「特定の部位に力が入っていない」ことや「可動域が狭い」あるいは「自覚していない骨格の歪みや筋力不足」などを改善してパフォーマンスアップに繋げることをゴールにしている点です。

今野鍼灸治療院では治療のその先を常にイメージしながら、アスリートの自己実現をサポートしていきます。

2010年ごろからEMSという機械をよく目にするようになり、近年では複数のメーカーから家庭用EMSも発売されており、より一般的になってきていると言って良いEMSです。
確かにEMSというのは筋肉を増やすという研究結果、論文が発表されています。
ただスポーツ選手にとってはどうなのか。
これを詳しく解説していきます。

EMSについて

まずはEMSについてです。
EMSとはElectrical Muscle Stimulationの略です。
日本語にすると「電気刺激を筋肉に与えて活性化させる」ということです。
もともとは医療現場やリハビリにおいて、高齢者や怪我をした後の筋肉を増強、再生させることが目的で作られました。

皮膚にパッドを貼り電気刺激を与えて筋収縮を起こす事により、脳から筋肉へ動くよう指示を出すのと同じような状態を作り上げられます。
それにより軽い筋トレをしているのと同じような筋力増強作用を望めます。

EMSには、業務用EMSと家庭用EMSがあり、業務用の方が電気の強さの幅が広く、効果が高いと言われています。
家庭用が部分的なEMS機器に対して業務用EMSは全身に貼り付けるタイプが多く、その分効果が出やすいとも言われています。
また、美容系EMSもあり、表情筋に貼って普段はあまり使えていない筋肉を動かすことでリフトアップ効果を得られるようです。

電気刺激の強弱にも寄るようですが、EMSを利用することにより軽い筋トレをした時くらいの筋肉増強効果が望めるというのが多くの論文の結論です。

スポーツ選手にとってのEMS

トレーニングには「特異性の原理」というものがあり、行っているトレーニング内容に対して”だけ”効果が現れます。
例えば、100m走だけのトレーニングを行えば100m走としてのスプリント力が身に付き、それだけをやっていても1500m走は速くなれません。
トレーニングの特異性に関しての詳細は以下の記事を参考にしてください。

トレーニングの原理と原則
https://konno-chiryo.com/training-principles/

  • EMSで筋肉がある程度増える
  • トレーニングには特異性の原理があり、行っているトレーニングにだけ効果がある

という中で、「スポーツ選手にとってEMSで筋肉を増やすことに意味があるのかどうか?」という重要な話をします。

特異性の原理という観点から、EMSで増やした筋肉はEMSに対して強くなる筋肉である、と言って良いと個人的には考えています。

例えばEMSで腹筋群に貼って筋肉を増やしたとします。
ランナーにとっての腹筋群は主に姿勢保持、上半身と下半身の動きの連動性、足を持ち上げる動作に関わってきます。
それらに応用できるか?と聞かれれば、僕の答えはNOです。なぜなら特異性の原理というのがあるからです。

ランナーとして腹筋群を鍛えたいのであれば、やはりそれは基礎的な腹筋のトレーニングをして筋肉を増やしつつ、ランニング動作に近い動作を取り入れた腹筋のファンクショナルトレーニングが必要になってきます。
むしろEMSで鍛えた腹筋はランニング動作には応用できない、けど筋肉が増えた分重い、というネガティブな効果になると言って良いでしょう。
どのスポーツにおいても同じことです。
ただ寝ているだけでEMSを使用して筋肉を増やしてもスポーツ選手にとってはパフォーマンスアップとしての効果は望めないということです。

「The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine 54巻10号」の中でも、「筋力強化以外の効果としてバランスへの NMES の効果も報告されているが,歩行機能への効果は確立していないと結論づけている.」という記載があります。

論文の詳細
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine 54巻10号
著者:緒方 徹
発行:2017年10月18日
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/54/10/54_764/_pdf

これはまさしく特異性の原理が働いているからと言って良いでしょう。
そのことからも、EMSで増やした筋肉はEMSに対して強くなり、歩行機能を向上させたければ歩行運動をするしかないのです。

全く効果は無いのか?

上記で「ただ寝ているだけでEMSを使用しても」と書きましたが、限定的な条件においてはスポーツ選手にとってもEMSは効果があるようです。

日本のみならず、アメリカでもスポーツ選手にとってのEMSの効果について研究がされています。
今の段階での結論は「EMSを使用しながらトレーニングを行うと、EMSを使用していない時と比べて筋肉が増えやすい」です。
EMSを販売している企業の中にはEMSを使いながらトレーニングができる施設を保有している企業があります。
今のトレーニングに対するパフォーマンスに満足がいかないようなら試してみるのも良いでしょう。ぜひ検索してみてください。

腹直筋にEMSを利用していたランナーの実例

当院に通院されているランナーの方を実例に挙げます。

主訴のひとつに膝の痛みがありました。
その一番の原因となるのは大腿四頭筋(前もも)でしたが、次に原因となっていたのは腹直筋(腹筋)でした。

腹直筋が非常に硬く、同じ筋膜に属する大腿四頭筋の負担となっていたのです。
なぜ腹直筋が硬くなるのかというと、ひとつは自律神経の乱れも要因として挙げられますが、腹直筋を鍛えすぎているからというのも挙げられます。
患者さまに伺うと、ここ数ヶ月で腹直筋にEMSを使用というお話でした。
ここでふたつ問題があります。

患者さまがEMSを利用した目的は、「お腹の肉を落としたいから」という話でした
しかし、残念ながら腹直筋にEMSを当てたからといってそれが直接お腹の脂肪を減らすわけではありません。
EMSとは筋肉を増やす機械であり、脂肪を減らす機械ではありません。
EMSで筋肉を増やし、基礎代謝がその分上がり、基礎代謝が上がった分だけ消費カロリーが増えることで痩せやすくなる、というのが本来の流れです。
これが1つ目の問題。

2つ目の問題は、EMSで増やした腹直筋は硬く、重く、それが大腿四頭筋の負担になっていた。
しかもランニング動作には繋がらない、というデメリットしかありませんでした。(この患者さまの場合、腹直筋が硬かった要因として自律神経の乱れも多少はありました)

そのため、早急にご説明差し上げ、EMSの使用はやめて頂けることとなりました。
このように、EMSを使用する目的がEMSの効果とズレている場合は痛みに繋がってしまう場合もありますので、スポーツ選手・アスリートの場合は注意するように心がけてほしいです。

EMSを否定しているわけではなく、その人にとって価値が変わる

ここで書いたのは、あくまでもスポーツ選手にとってのEMSの効果です。
特にパフォーマンスアップを求めていない趣味で運動をしている人や、運動をするのが苦手だけど筋肉を増やして基礎代謝を上げて、その分ダイエットに期待したいという人にとってはEMSというのはその可能性があります。
自分が何を求めているのか、それに対してのEMSの効果をしっかりと理解しておきましょう。

著者プロフィール

今野 弘章
今野 弘章
自身の元競泳選手の経験や、「アスリートは体の痛いところを治せば良いわけではない」という考えから、

競技中(日常生活)の痛みの改善
「この部位に力を入れられない」といった身体の悩みの改善
通常時、痛み時のトレーニング
日頃のメンテナンス

など、より良いパフォーマンスにつなげるための、治療、指導を行っております。

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