パフォーマンス、肩のケガ予防につながる前鋸筋の使い方

高輪で鍼灸治療院を開いている今野です。

自身が元競泳選手ということもあり、アスリート専門の治療院となっております。

一般的な治療院との違いは、痛みを治すことや硬い部位を緩めるだけではなく、「特定の部位に力が入っていない」ことや「可動域が狭い」あるいは「自覚していない骨格の歪みや筋力不足」などを改善してパフォーマンスアップに繋げることをゴールにしている点です。

今野鍼灸治療院では治療のその先を常にイメージしながら、アスリートの自己実現をサポートしていきます。

肩の痛みの原因となる筋肉は様々ありますが、その中のひとつである前鋸筋が原因となっていることも多くなっております。
肩の痛みに悩んでいる人や、何度も痛めてしまう人は前鋸筋の使い方が不充分なのかもしれません。
また怪我だけではなく、前鋸筋を意識して利用することで、スイム、バイクなどは効率の良い動きができ、パフォーマンスの向上に繋がります。

しかしながら多くの方がこの前鋸筋の使い方や意識の向け方がわからないようです。
そこで今回は前鋸筋について

  • スイムやバイクでの使われ方
  • 意識的に使う方法

を詳しく解説していきます。

前鋸筋の解剖学的知識

解剖学的に、かつ専門的に全ての筋肉を知っておく必要はありませんが、

  • どのあたりに存在していて
  • どのような動きをする程度は知っておいた方が良いです。

特に今まで意識的に使ったことのない筋肉ですと、目的とする筋肉がどこにあってどの動きで使われるのかを知っておかないとなかなか意識的に使えるようにはなりません。
これを読んで下さっているあなたがどのようなアスリートレベルにせよ、もっとパフォーマンスを上げていきたいなら簡単で構いませんので、筋肉については徐々に知識を蓄えていきましょう。

前鋸筋について解剖学的にいうと、

  • 起始→第1〜9肋骨
  • 停止→肩甲骨の内縁
  • 作用→肩甲骨の下制、外転、上方回旋、肋骨の挙上

となります。
これを簡単にいうと、胸の外側についており、肋骨と肩甲骨を結ぶように構成されており、腕を前や上・下に伸ばすということになります。

前鋸筋の使われ方

スイム、バイクを例に、前鋸筋の使われ方や、うまく使えて無い場合のデメリットをご紹介いたします。

スイム時の前鋸筋

スイム時の前鋸筋は立って気をつけの姿勢から

  • 腕を天井方向
  • 前へならえの方向
  • 足元の方向

に伸ばす時に使う筋肉です。

それらの動きは水泳で言うと、手が入水して

  • より遠くに伸ばしてキャッチ(腕を天井方向)
  • キャッチからプル(前へならえの方向)

の時に使います。

これらの動きが上手ということは、よりひとかきで進めるようになる、つまりより効率的に泳げる、ということです。

逆に使えない人というのは、「効率的に泳げない」というだけでなく、「本来前鋸筋が働いている分を他の筋肉が代償的に働く」ということでもあります。

他の筋肉が代償的に働いた結果、その筋肉の負担が増す→筋肉が硬くなる→それでも泳ぎ続ける→腱や靭帯、関節を構成する組織へと負担がきて、炎症になる、という流れで肩の痛みへと繋がるわけです。

バイク時の前鋸筋

上半身を屋根としてみた時に、腕は「柱」にあたります。
柱として腕を見た時に、それを支える筋肉のひとつに前鋸筋が存在しそれは「方づえ」の役割と同様です。
(方づえとは木材で屋根を作る時に構造を強化するために斜めに木材を組み込んだ部分のことをいいます。写真①)

写真①

仮に腕を柱として屋根(上半身)を支える筋肉が3つだった場合(写真②)に、満遍なく3つの筋肉がうまく使えて支えていれば負担も分散されますが、もし前鋸筋がうまく使えていなかった場合は他の2つの筋肉に負担が集まります。

写真②

そうするとその2つの筋肉の疲労が溜まるスピードが早まります。
疲労が溜まりきると機能しなくなり、柱の役割として充分ではなくなってしまいます。
その後の負担として今度は背中側に周り、特に肩甲骨周囲や肩に集まります。
肩甲骨周囲の筋肉が硬くなると、肩周りの筋肉を引っ張ることになり、その状態のままトレーニングを続けることで負担が肩に集まってしまうことで前段落と同じ理由で肩の痛みに繋がります。

特にロングのトライアスロンでは長時間のレースゆえ、ひとつの筋肉をうまく使えているか・そうではないのかで他の筋肉への負担が非常に大きくなります。
また、TTポジション(写真③)だとその姿勢により元々首から背中にかけて(写真④)の負担がどうしでも存在していますので、前鋸筋を使えていないことによる負担が上乗せされてしまうことで余計に硬くなってしまいます。

写真③

写真④

レース中においては、肩周りが硬くなることでバイク後のランで腕振りにブレーキがかかることにもなります。
また、肩甲骨と背骨の間にまで負担が集まり硬くなれば呼吸がしにくくなってしまいます。
そのため、前鋸筋を使えることでこういったことを回避でき、より楽な状態で最後のランを始めることに繋がります。

前鋸筋をうまく使うためのトレーニング

「ここの筋肉を使って腕を前に伸ばしてください」と言ってすぐに出来る人は多くないです。
動作として腕は前に伸ばせても、「前鋸筋を意識する」ことは非常に難しいです。
幼少時から競泳やボクシングをやっている人以外では意識的に使ってきたことがないから当然です。

しかし使えないままだと勿体なく、今のタイムや実力よりももっと上を目指すなら使えるようになるべきですし、怪我の予防という観点からも必要な筋肉です。

ではどのようにしたら意識が向くようになるのか?
当院では二段階で指導しています。

1段階目:解剖学的な動き

1段階目は解剖学的な動きから入ります。
患者さまには腕を上、前、下に伸ばしてもらい、施術者は前鋸筋を触れておいて患者さまの意識をそこに向けるようにします。
これを何度も繰り返し、意識がいくようになったら次の段階です。

患者さまによってどの動きで一番意識できるのかは異なりますので、なるべく一番意識しやすい動きから始めます。

2段階目:スイムでの動き

2段階目はスイムでの動きの中での前鋸筋です。
特に入水からキャッチ、キャッチからプル動作においての前鋸筋を意識してもらうよう動きながら、施術者は前鋸筋に触れておきます。
これも何度も何度も繰り返していきます。

バイクでの姿勢保持に関しては2段階目が行えるようになってくると、バイク中でも意識できるようになってきます。

トレーニングを行うにあたって

こういった筋肉への意識の練習というのは言葉や文章だけで伝えてもなかなか上達しません。
通っている治療院やご自身のコーチ、トレーナーに聞いて、一緒に練習してみてください。

マイナーだけど重要な前鋸筋

例えば大胸筋やハムストリングスなど、誰もが聞いたことのあるようなメジャーな筋肉とは異なり、前鋸筋というのは聞いたことがない方も多いでしょう。
しかしながら実は腕が動く運動にはとても重要な役割を担っています。
この前鋸筋を使えるようになることはパフォーマンスアップにも怪我予防にも繋がりますので、是非練習して使えるようにしましょう。

著者プロフィール

今野 弘章
今野 弘章
自身の元競泳選手の経験や、「アスリートは体の痛いところを治せば良いわけではない」という考えから、

競技中(日常生活)の痛みの改善
「この部位に力を入れられない」といった身体の悩みの改善
通常時、痛み時のトレーニング
日頃のメンテナンス

など、より良いパフォーマンスにつなげるための、治療、指導を行っております。

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