高輪で鍼灸治療院を開いている今野です。
自身が元競泳選手ということもあり、アスリート専門の治療院となっております。
一般的な治療院との違いは、痛みを治すことや硬い部位を緩めるだけではなく、「特定の部位に力が入っていない」ことや「可動域が狭い」あるいは「自覚していない骨格の歪みや筋力不足」などを改善してパフォーマンスアップに繋げることをゴールにしている点です。
今野鍼灸治療院では治療のその先を常にイメージしながら、アスリートの自己実現をサポートしていきます。
当院にはトライアスリートの患者さまが多く来院されます。
エイジグループの皆さまから一度は聞かれるのが、『どうやったらキックが上達するのか?そもそもキックって打つべきなのか?練習すべきなのか?』というキックにまつわるコメントです。
僕の回答は『キックの練習はすべき』です。
では以下にその理由を詳しく解説していきます。
目次
クロールのキックは本当に必要?そう思ってしまう背景
冒頭のトライアスリートからのご質問の背景には以下のような事情が見え隠れしています。
- トライアスロンのレースにおいてはウェットスーツを着てスイムに挑むため、身体が浮きやすいからキックの重要性を感じない
- バイクとランの為に下半身を温存したい
- 筋肉量の多い下半身を使えば使うほど筋肉は酸素を必要とするため、比例して心拍数も上がってしまい、その分疲労度も上がってしまう
また、施術者から見ると大人になってからトライアスロンを始めた方々の足首は硬めなので、ムチのようにしなるクロールのキックを打つには柔軟性という課題もあります。
実は競泳選手の中にもキックが苦手な選手はいます。
100m自由形で1分を切れる選手でも、50mの板キックを1分サークルで回るのが結構つらいと感じる選手も一定数いるほどです。
実際に推進力としてみたときに、クロールは腕重視の種目であり、キックの推進力としては大きくありません。
これだけ聞くと「やはりキックは必要ないのでは?」と思ってしまいそうですが、そういうわけではありません。
それでは本題の『キックの必要性』に進みましょう。
クロールのキックの必要性
クロールのキックは以下の3つの観点、理由により必要となります。
全身の連動性
ひとつめは全身の連動性になります。
例えばポケットに両手を入れてジョギング程度の速さで走るのは、走りにくいとは思いますが可能なはずです。
ただスピードを上げていったらどこかのタイミングで腕を振らずにはいられなくなるか、本来はもっと速く走れるのに両手を動かせないからそれ以上はスピードを上げられないか、のどちらかになるはずです。
これは走るという動作において両腕の遠心力を利用し、筋肉・筋膜の連動性を使って走るのが自然な動きだからです。
同じようにクロールでも足を止めて泳ぐことは可能ですが、難しいですし、一定以上のスピードからは上げる事ができません。
つまり、キックを捨ててクロールを泳ぐということは、ランニングで両腕を動かさないで走るのと同じことと言っていいので、いかにそれが勿体ないことかはトライアスリートならわかるはずです。
下半身が沈まないように
いくらウェットスーツを着ているからと言って、全く足を動かさなかったら下半身はやや沈みがちになることでしょう。
その沈んだ分だけ、下半身に水がぶつかることになるので、抵抗になります。
もし理想のキックを打てることができるなら、ウェットスーツの浮力にちょっとだけキックを足してあげることで水の抵抗にならない位置でキープできます。
そのときのキック量は泡立ちも小さく大したことがないレベルなので、心拍数もそこまで上がらないはずです。
体幹部のローリングのサポート
クロールを泳ぐと必ず体幹部がある程度回転します。
それを体幹部のローリング、またはローテーションと呼びます。
その体幹部のローリングは体幹部の筋肉でも行いますが、キックによるサポートでさらに上手く回転することができるようになります。
但し、ローリングやキャッチとキックのタイミングが合っていることが求められます。
ローリングがうまくできていると身体が斜めになっている時間が長くなるので、抵抗が少ない姿勢を長く保つことができます。
つまりその分楽に泳ぐことができます。
また、身体が斜めになっている時間が長い分、腕を戻してくるリカバリー動作において肘を高く保てるので、肩周りの筋肉の負担を減らせます。
肘を高く保ってリカバリーができるということは、腕の入水も手から先に入水することができます。
逆を言えば、ローリングがうまくできていない→身体が斜めの時間が短い→肘を高く保てない→入水時に肘から入ってしまう→抵抗になる、ということです。
さらに、ローリングができている=身体が斜めの時間が長い、それはフィニッシュの位置をより後ろにずらせるだけの時間的猶予が生まれます。
それだけ推進力にも繋がります。
複数の理由からローリングというのは非常に重要であり、そのローリング動作のサポート的な働きをしてくれるのがキックになるのです。
キックの練習方法
キックの練習方法とその目的についていくつか例を挙げましょう。
ビート板を使ってのキック、いわゆる板キックをひたすらやれば上手くなるかというと、そんなにシンプルな問題でもありません。
キックとしてのドリル練習のようなものも取り入れて上達させていくのがベターです。
背泳ぎのキック
多くのトライアスリートはキックの蹴り上げ動作が上手くできません。
背泳ぎのキック(背面キック)を取り入れることで、足を身体の背面に動かすという感覚がどういう感じなのかを覚え込ませることができます。
ただ、背泳ぎのキックをすると背面側に足が沈んでしまう側面もあります。
背面側に蹴り下げキックをしているのか、ただ沈んでしまっているだけなのか、両者には大きな違いがあります。
また、ご自身では背面側にキックしているつもりなのに実はただ沈んでしまっているだけ、というケースもあります。
練習でしっかりとキックが打てている場合
しっかりと腰、臀部、ハムの筋肉を使えているなら練習をしていると、それらの箇所が疲れてくるはずです。
疲れない場合はできていない証拠です。
対象の箇所が疲れない場合、まずは陸上でうつ伏せに寝て、片足ずつ天井方向に上げて筋肉を使う感覚を養う練習をしましょう。
背泳ぎのキックで注意点
背泳ぎのキックで注意点としては、膝が水面から出ないようにキックすることです。
水面から出ていると「自転車こぎ」のような動きになってしまい、うまく水を蹴れていません。
背泳ぎのキックで蹴り下げ(背面側に)る時は膝を伸ばした状態で行いますので、そこに意識を向けてください。
サイドキック
身体を真横に向けてキックをします。
顔も真横にすると鼻に水が入ってしまったり、それを防ぐために鼻から息を出すとすぐに苦しくなってしまって呼吸の回数が増えます。
そうすると慌ただしく、キックの練習になりません。
息を止めていても鼻に水が入らない程度にプールの底へ顔を向けるようにしてください。
但し、身体は真横にします。
その状態でキックをしていくと、蹴り上げと蹴り下げの幅が等しく打てていないと進行方向が曲がっていってしまいます。
この練習でしっかりと蹴り上げ(背面側)ができているかどうかの確認にもなります。
スピードは遅くても構いませんので、ちゃんとまっすぐに進めるようになるまで練習しましょう。
キャッチとキックのタイミング合わせ
これは上記のローリングのための練習です。
慣れるまでは片手クロールでやるといいかもしれません。
右手だけでクロールをします。
左手は前に伸ばした状態でキープします。「右手でキャッチする瞬間に右足でキックする」というのだけを意識して行います。
他は何も気にせず、それだけ注意して泳いでください。
反対に、左手のみで行う場合は左手のキャッチと左足キックだけを意識します。
このタイミングを身体に覚え込ませ、意識しなくてもタイミングが合っているようにしましょう。
タイミングがバチッと合っていればキャッチとキックにより体幹部がスムーズにローリングしてくれます。
蹴り上げのコツ
前項で蹴り上げが上手くできないトライアスリートが多いと書きました。
以下の写真は蹴り上げの瞬間の映像を切り取ったものです。
蹴り上げているにも関わらず、股関節が曲がっているのがわかるかと思います。
股関節の力が抜けているとこのように曲がった状態のまま泳ぐことになり、これは下半身が沈みやすく、且つ水の抵抗を生んでしまうことにもなります。
理想は以下の写真のように、蹴り上げの瞬間は股関節が少しだけ伸びているのが好ましいです。
これを改善させるために「蹴り上げを意識しましょう」というのはよく言われることではあります。
しかし言われてもなかなか改善できない方がいらっしゃるのも事実です。
その場合、僕は「蹴り上げる時にお腹を伸ばしてみてください」とお伝えしています。
指導を受ける側のトライアスリートも十人十色です。同じ指導内容ではうまく伝わらないこともあります。
指摘ポイントは同じ内容ですが、違う言い方をするとすんなりできたりもしますので、蹴り上げを意識しているつもりでもなかなか上手くできないという方は、蹴り上げの際にお腹を伸ばすというのを一度トライしてみてください。
キックは推進力ではなくクロール全体のため
以上がキックを打つ必要性になります。
キックの推進力というのは確かに大したことはありません。
しかしながら推進力以上に大きな役割があるのです。
「キックだけ」を見てしまうと必要性を感じないかもしれませんが、クロールはあくまでも全身運動で成り立っています。
ゆえにキックを打つことで全体としてどのようなメリットがあるのかをしっかりと理解しておきましょう。
著者プロフィール
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自身の元競泳選手の経験や、「アスリートは体の痛いところを治せば良いわけではない」という考えから、
競技中(日常生活)の痛みの改善
「この部位に力を入れられない」といった身体の悩みの改善
通常時、痛み時のトレーニング
日頃のメンテナンス
など、より良いパフォーマンスにつなげるための、治療、指導を行っております。
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