成長期におけるスポーツ貧血の原因とその対策

高輪で鍼灸治療院を開いている今野です。

自身が元競泳選手ということもあり、アスリート専門の治療院となっております。

一般的な治療院との違いは、痛みを治すことや硬い部位を緩めるだけではなく、「特定の部位に力が入っていない」ことや「可動域が狭い」あるいは「自覚していない骨格の歪みや筋力不足」などを改善してパフォーマンスアップに繋げることをゴールにしている点です。

今野鍼灸治療院では治療のその先を常にイメージしながら、アスリートの自己実現をサポートしていきます。

小学生でサッカーをやっているお子様を持つ患者さまから、お子様がスポーツ貧血の可能性があると診断を受けたため、何かできることはないかとご質問を受けました。そこで今回は小学生から中学生の成長期におけるスポーツ貧血について詳しく解説していきます。

スポーツ貧血の原因

スポーツ貧血の原因は以下の5つとされています。

①走る動作

原因の1つ目としては多くのスポーツにおいて基本となる走る動作が原因となります。
以前は行軍貧血とも言われていましたが、マラソン、サッカー、バスケットボールやバレーボールなどの長時間走るスポーツにおいて、物理的に足の裏が着地の際に地面とぶつかるため、かかと周囲の血管が潰され、血管の中にある赤血球が壊されてしまうことで貧血に繋がってしまいます。

②汗

汗は99%が水ですが、残り1%に含まれている成分の中に鉄も存在しています。
鉄の他には塩分、カリウム、マグネシウム、亜鉛などがあります。
よって、運動中に汗をかけばかくほど鉄は失われていきます。

③月経

女子小学生の高学年になってくると初経を迎え、定期的に月経がくるようになります。
その分鉄を失いますので、成人と同様、女子選手は男子選手よりも貧血になりやすいので注意が必要です。

④栄養バランス

当然鉄は摂取しなくてはなりませんが、鉄分だけではなくタンパク質も非常に重要です。
赤血球は主にタンパク質と鉄から作られますので、タンパク質摂取量が不足していると赤血球が充分に作られない可能性に繋がってしまいます。
また、ビタミンCを一緒に摂ると鉄の吸収率が高まるのと、ビタミンB12は造血に関与します。

⑤成長過程

実は成長期に必要な栄養素は成人よりも多い場合があります。
鉄はそのうちの1つです。
これは骨格や筋肉が成長して大きくなることでより多くの栄養素が必要だからです。
では具体的にどのくらいなのか一覧にしてありますので見てみましょう。

●1日に必要な鉄の推奨摂取量

(※厚生労働省 鉄の食事摂取基準参照 https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/dl/s0529-4aq.pdf

成人:女性 6.0~6.5mg, 男性 7.0~7.5mg
10~14歳:女性 9.5~10mg, 男性 10~11mg

このように成長期の子供と成人の差がはっきりと数字として出ています。

隠れ貧血、隠れ鉄欠乏症にも注意

貧血は主にヘモグロビンの数値を見ます。
小学生ですと12.0g/dl 以上が基準値になります。
ただし、ヘモグロビンが正常値なのに貧血の症状を訴える方もいて、これを隠れ貧血、隠れ鉄欠乏症と言ったりします。
それを疑うのがフェリチンの項目になります。

フェリチンとは鉄の貯蔵と血清鉄濃度の維持を行うタンパクのことです。
鉄が不足するとフェリチンの減少 → 血清鉄の減少 → ヘモグロビンの減少という順序で起きるので、フェリチンから先に減少していきます。
つまり、フェリチンが減少し始めているけどまだヘモグロビンの減少までは起きていないタイミングで血液検査をすると、一見正常なのに貧血の症状が出ている、というシチュエーションになります。
ただこのフェリチンは一般的な血液検査では項目に入っていないことが多いので、ヘモグロビンが正常なのに貧血の症状が出ていて疑わしい場合は主治医にフェリチンのことも相談するか、フェリチンを検査してくれる血液検査を実施している医療機関を探してみましょう。

スポーツ貧血を放置した場合

貧血の症状としては

  • 息切れ
  • 疲れやすい
  • イライラする
  • めまい
  • 朝起きられない
  • 頭痛

などが挙げられます。

ヘモグロビンが減少するということは、酸素を運搬する能力が減少するということです。
よって、日常生活や疲労回復にも支障が出ますし、運動中のパフォーマンスにも悪影響が出ます。

貧血の一番の問題は、「貧血の症状が出ているとはわかりにくい」という点です。
特に夏の間は熱中症の症状も出る場合があるので、仮に頭痛をお子様が訴えていても簡単に熱中症からなのか、実は貧血なのか、判断は難しいところです。
そして「疲れやすい」という症状があることから、お子様が「疲れた」と訴えても周りの大人としては「運動しているから疲れるのも当然だよな」と思ってしまう場合もあるかもしれません。
また、『子供がサボりたいから仮病を使っているのかも?』とか、『なにか精神的なことからくるのかな?』と周りの大人としては思ってしまう側面もあるかもしれません。
相手が小中学生くらいだと、こういった事があるのかないのかを判断するのは非常に難しいです。
そういった時は訴えている症状の他にも何か言っていない症状があるのかどうか、運動中はどうなのか、安静時はどうなのか、細かく観察してみたり、よく話を聞くようにしましょう。

貧血を放置すると、知らず知らずのうちにパフォーマンス、運動、トレーニングの質は低下しているので、頑張っているほど運動能力の向上には繋がっていない可能性があるので、注意が必要です。
あまりにも症状が出やすかったり、1週間以上継続するようなら早めに主治医に相談してみることをオススメします。

基本対策:日々の食事から

まず対策すべきは日々の食事になります。
ただその前に1つ、鉄について重要な事柄があります。
それは「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」です。

ヘム鉄はタンパク質に包まれた状態なので、吸収されやすい形で、吸収率は約20%と言われています。
非ヘム鉄は反対に吸収率としては低く、一緒に食べた食材からの影響を受けやすく、吸収率は2~5%と言われています。
非ヘム鉄の場合はビタミンCを多く含む食材と一緒に食べると吸収率を上げてくれます。
簡単に言うと肉類と野菜類は一緒に食べたほうが良いと認識しましょう。
そのうえで、貧血対策としては

  • ヘム鉄を多く含む食材を中心に選んでいく
  • 組み合わせをうまく考えていく

と良いでしょう。

上記のように1日に接種する推奨量を元に、お子様が好きで食べられそうなものから順に食材を使っていきましょう。
よくあるインターネット上のサイトに載っている「鉄を多く含む食品」というリストを参考にして頂くのがわかりやすいです。
ただこれらの中にはレバー等、なかなかお子様が好まない食材が載っていますので、うちの子達が好んで食べる食材を以下に挙げます。

ヘム鉄

  • 砂肝 9.0mg/100g
  • 豚こま肉 0.59mg/100g
  • 豚ひき肉 1.1mg/100g
  • 鶏むね肉 0.3mg/100g
  • 鶏もも肉 0.6mg/100g
  • 鶏ひき肉 0.8mg/100g
  • 卵 0.9mg/1個

非ヘム鉄

  • ココア 20mg前後/約1杯
  • 焼き海苔 11mg/100g
  • 乾燥わかめ 6.5g/10g
  • きな粉 8.0mg/6g
  • 厚揚げ 2.6mg/100g
  • 納豆 1.5~2mg前後/1パック

このように、ヘム鉄においては普段よく使う肉類には多く含まれておらず、鉄分のことを意図的に気にして砂肝を使う必要があります。

一方、非ヘム鉄には比較的多くの鉄分が含まれているので、食べ合わせのことを考える余裕があるならこちらの方が摂りやすいです。
ビタミンCを多く含み、一緒に食べると食べると吸収率を上げてくれる食材としては穀物や玄米、ブロッコリーが代表例になります。

しかし、食事というのは鉄分のこと「だけ」を考えてメニューを考えるわけにはいきません。
砂肝を毎日食べるわけにもいきませんし、肉類を多く食べれば脂質が高くなり体重の増加にも繋がってしまいます。
満遍なく栄養素のことを考えつつ、鉄分のことを今までよりも少し考慮して工夫してそれ以降の様子を見ていきましょう。

組み合わせという点で反対に鉄の吸収を阻害する成分もあります。
コーヒーや紅茶、緑茶に入っているタンニンや、加工食品や清涼飲料水に入っているリンです。
タンニンの含まれている飲み物を飲みたい場合は食後30分くらい間を空けてから飲むようにしましょう。
リンに関してですが、加工食品はなるべく避けたり、清涼飲料水ではなくスポーツドリンクを飲むよう心がけましょう。

捕食での対策:一度に食べられる量が多くない場合

小学生くらいだとまだ一度に食べられる量が多くないお子様もいらっしゃいます。
その場合は鉄分だけではなく、カロリーも足りていない場合があります。
カロリーが足りていないとタンパク質がエネルギー供給に使われてしまい、必要なタンパク質を確保することが難しくなってしまいます。
カロリーの過不足に関しては、定期的に体重を測定して、成長期ということを加味すると基本的には増加傾向、少なくとも現状維持であることが好ましいです。
多少のプラスマイナスは水分量や胃腸の内容物で変わってきますが、元々がぽっちゃり体型だった子供は別として、明らかに減少傾向というのは注意が必要です。
月曜日の朝食前など、決められた曜日、決められた時間に定期的に測定するよう癖付けしましょう。

足りていない場合はおやつをなるべく我慢して、代わりに捕食を用意しましょう。
例えば玄米が嫌でなければ玄米を、もし苦手であれば白米と半々にしたお米でおにぎりを作り、海苔を巻いてあげましょう。
それによりビタミンCの摂取量も上がるので、非ヘム鉄摂取のカバーができます。
具材としてはツナ(ヘム鉄1.9mg/100g)を使ってツナマヨがうちの子達には人気です。
また、おにぎり1つの大きさは小さい方がベターです。
大きいと残してしまった時にお子様が罪悪感を感じる場合もあります。
少食のお子様としては「出されたものを全部食べられた!」という成功体験も大事になってきますので、そこの工夫も入れてあげてください。
小松菜(非ヘム鉄2.8mg/100g)やほうれん草(非ヘム鉄2.0mg/100g)を使って、きのこや卵を加え、タンパク質源としてひき肉等を入れたスープもオススメです。

おすすめしない対策:サプリという選択肢

個人的にはサプリというのは特にオススメしていないです。
サプリは本来個人が自己判断し、足りていないものを補う手段の1つです。
大人はそれができても、成長過程にある子供というのは何が足りていないのか、本当に身体の中で起きていることはなんなのか、それを一般人が判断することは難しく、時に危険も伴うと思っているからです。

そういった理由から、まずは主治医に相談し、主治医が検査・診断した結果として必要な鉄剤やビタミン類、葉酸などを処方してくれた場合はそれに従うようにしましょう。

まずは基本の食事内容を見直してみましょう

鉄分が栄養素として成人よりも多く必要だということをご存じなかった方も多いのではないでしょうか。
まずは基本となる食事、水分補給をしっかりとし、睡眠時間の確保も大事です。
そのうえでスポーツ貧血が続いてしまうようなら血液検査を実施したり、主治医と相談していきましょう。

著者プロフィール

今野 弘章
今野 弘章
自身の元競泳選手の経験や、「アスリートは体の痛いところを治せば良いわけではない」という考えから、

競技中(日常生活)の痛みの改善
「この部位に力を入れられない」といった身体の悩みの改善
通常時、痛み時のトレーニング
日頃のメンテナンス

など、より良いパフォーマンスにつなげるための、治療、指導を行っております。

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