水泳肩(水泳での肩の痛み)の原因と年代別の未然の対策

高輪で鍼灸治療院を開いている今野です。

自身が元競泳選手ということもあり、アスリート専門の治療院となっております。

一般的な治療院との違いは、痛みを治すことや硬い部位を緩めるだけではなく、「特定の部位に力が入っていない」ことや「可動域が狭い」あるいは「自覚していない骨格の歪みや筋力不足」などを改善してパフォーマンスアップに繋げることをゴールにしている点です。

今野鍼灸治療院では治療のその先を常にイメージしながら、アスリートの自己実現をサポートしていきます。

スイマーやトライアスリートで肩に痛みを感じたことのない人はいないと言ってもいいくらい、肩の痛みとはいつでも隣り合わせです。

水泳肩の症状を放っておいたままトレーニングを続けると症状は悪化し、腱板断裂や肩峰下滑液包炎、関節唇の炎症といった疾患に繋がってしまいますし、強い炎症が起きれば腕を動かさなくても痛みを覚え、練習を続けることは困難になります。

そこで今回は、スイマー・トライアスリートを悩ませるこの肩の痛みについて解説し、予防と対策についても書いていきたいと思います。

なぜ水泳肩になるのか?痛くなる仕組み

僕はクロールでいうと25メートルで13~14かきなので、現役時代に一度の練習で6000メートル泳いでいたとすると単純計算で3000かき以上も肩を回しています(片方の肩で1500かき以上)。

スイマーではない方は一度も肩を回さない日もあるかもしれないことを考えると、スイマーの肩への負荷は異常といえます。

しかし、その負荷に耐えられる筋力、柔軟性、技術があり、ケアが足りていればさほど悩まされることはありません。

事実、僕は現役当時は練習の質を落とさなければならないほどの肩の痛みというのは経験していません。

ですが筋力、柔軟性、技術、ケアのどれかひとつでも著しく足りていなかったり、これら4つが全体的に少しずつ足りていなかったりすると負荷に耐えられなくなり、症状が出始めます。

症状は選手によって異なるので一概に何が原因でどこが痛くなるということは言えません。
傾向として多いのは上腕二頭筋腱が肩関節の骨と何度もこすられることで炎症になり、肩の前面が痛くなります。

肩の前面が痛くなる場合には、以下の2つのような状況が挙げられます。

  • キャッチの動作でハイエルボーをすることで効率よく水を掴んでより推進力を得ることができるが、解剖学的に言えばハイエルボーは無理な動作なのでかなりの負荷が肩にかかる。
  • リカバリー動作で体幹のローリングが浅いために、腕を身体よりも背面の位置でリカバリーすることで肩の前面に負荷がかかり、痛みが発生する。

また、肩の前面以外にも、肩の後面が痛くなるケースもあります。

肩の後面が痛くなる場合には、以下のような状況が挙げられます。

  • 巻き肩で肩が前に出ている場合に背面の筋肉はそれだけで常に引っ張られている状態にあります。
    筋肉は引っ張られ続けるのを嫌がり、耐えようとして硬くなります。
    その状態でトレーニングをするのでさらに硬くなり、動かし、さらに硬くなり、というのを繰り返した結果、肩の後面(棘下筋、大円筋、小円筋など)が痛くなります。

水泳肩になる原因は練習のどこにあるのか?改めて問題を探そう

では、以上の事柄を水泳の指導者は知らないのでしょうか?

そんなことはないと思います。

水泳界において水泳肩は常識ですから、各指導者はちゃんと考えて対応をしていることと思います。
しかし、それでも今もなお水泳肩に悩む選手がいるということは、何かが足りていないか間違っているのではないかと思います。

知り合いの指導者や選手、僕の患者様から聞いた中では、以下のような間違いが多く挙がります。

  • 間違ったやり方のストレッチを継続している。
  • 毎日ストレッチをやっていない。
  • 過度にストレッチに期待している。
  • 鍛えるべき筋肉を間違えている。

それぞれについて詳しく解説します。

間違ったやり方のストレッチを継続している。

例えば、

  • 練習前にストレッチをしている。
  • 痛いほどストレッチをしている。

というのがここに当てはまります。

練習前は身体が暖まっていませんので、その状態でストレッチをすると腱に負担がかかりすぎて腱を痛めるか、腱が伸びてしまい関節の固定力が減り、その分他の筋肉が代償的に働いて固定力を補おうとするのでその筋肉と関連する部位に何かしらの症状が出てしまいます。

痛いほどストレッチをするというのも間違いです。痛くなるほど強くストレッチをしたら上記と同じように腱を痛めます。

ストレッチに関しての記事も書いてありますので、そちらをご参考にお願いします。
https://konno-chiryo.com/stretch-point/

ストレッチは必ず練習直後か入浴直後の身体が暖まっている時に優しく長く行うようにしましょう。
なお、練習前は身体を動かす体操や軽い筋トレ、チューブなどがおすすめです。

毎日ストレッチをやっていない。

練習直後に全員でストレッチを行っているチームもありますが、プールや施設の使用環境の兼ね合いで行えないチームもあります。

そうすると自宅で自分で行うことになりますが、つい忘れてしまう、ついサボってしまう、疲れて寝てしまう、ということはあると思います。
それが続くと筋肉の疲労が溜まり、筋肉は硬くなり、症状が出やすくなってしまいます。

特に中高生はその傾向になりがちですので、そこは保護者が一言声をかけてあげたり、一緒にやってあげるなど、工夫が必要です。

過度にストレッチに期待している。

ストレッチには重症から中症程度の症状を治すような効力はありません。

トレーニングに支障が出るような度合いの症状が出たらストレッチでは改善しませんので、すぐに治療院へ行きましょう。

トレーニングに支障は出ないが痛みや違和感を感じるような軽症であればもしかしたらストレッチで改善する可能性はありますが、念の為なるべく早く治療院へ行って早めに対処するのが理想的です。

鍛えるべき筋肉を間違えている。

人の身体は千差万別です。

基礎的な筋力トレーニングのメニューを全員で同じように行うのは良いと思いますが、10人選手がいたら、より重点的に鍛えるべき筋肉(鍛え方が足りない筋肉)は10通りあるはずです。

その鍛えるべき筋肉を放っておいてしまうことでどこかに負担が集まり、症状として出るわけです。

僕の大学時代を例にすると、全員が行う筋力トレーニング(ウェイトトレーニングやバランスボールなど)に関しては専門のフィジカルトレーナーがメニューを作り、各選手が何かしらの症状が出てしまった時はメディカルトレーナーのところに行き、ケアを受けつつ「この筋肉をこうやって鍛えたほうがいい」と指示を受けます。

中学・高校やスイミングクラブに専属のメディカルトレーナーのような有資格者が在籍しているのは極一部でしょうから、なにかしらの症状が出ている選手は近所の信頼する治療院へ行って早めに相談するのが理想です。

年代別の水泳肩を見つけやすくするために気をつけておくべきこと

「症状が出ないようにトレーニングとセルフケアをすること。」
これが最も大事なわけですが、現実的にはそう簡単にはいかないことが多いです。

そこで、年代別に症状を見つけやすくするために気をつけておくべきことを書いていきます。

小学生

よっぽど成長が早いわけではない限り、筋肉はまだそこまでついてませんし関節も柔らかいのでさほど心配しなくていいでしょう。

ただし、保護者の方々はしっかりとお子様に注意を向けておいて、いつもと変わったことがないのか見守っておくことが非常に重要です。

特に小学6年生あたりから中学に入るころというのは環境も変わり、友人も増え、選手の精神状態もある意味不安定になる子もいます。

思春期になると親が介入してくるのを鬱陶しく感じる子もいますので、うるさ過ぎず、けど放任しすぎず、絶妙な距離を保って見守れるよう努力と協力が必要です。

中学生

一気に練習量が増えます。

特に女子選手は成長が早いので筋肉がついてくることで無意識に筋肉に頼ってしまう泳ぎ方をし始めます。

本人が肩の症状を筋肉痛と選別できるかはまだ不安なところがありますので、保護者の方は定期的に「最近水泳どう?身体はどう?」と気にかけてあげてください。

高校生

男子選手は筋肉量が増え、身体が一気に変わっていきます。

中学生の女子選手同様、筋肉に頼る泳ぎ方をしてしまう選手も多いので泳ぎこむことと同じくらい技術的なことをしっかりと身に付けさせる必要があります。

筋肉痛と肩の痛みは選別できることと思いますので、保護者の方は「なにか違和感を覚えたら我慢せずにすぐに親に言うかコーチに言うんだよ」と時折気にかけてあげてください。

大学生と社会人

それまでの負担が積み重なっていることが多いので、症状がなくてもケアをお願いできる治療院をまずは探しましょう。
信頼できる治療院を見つけておくことで症状が出始めてしまった時にすぐに相談することができ、それ以上悪化するということを防げます。

万が一症状が強くなるまで放っておいてしまってもそこから探して見つけるという時間を割くことができます。

筋肉量もさらに増えますが、一番大事なのは体幹部の筋肉です。

見た目の派手さなどでベンチプレスを好んで沢山やるということがないように気をつけましょう。

全年代の共通点として

我慢強い子、真面目な子ほど症状が出始めても「これくらい大丈夫。そのうち治る。ここは我慢」と考えてしまい、それにより症状が悪化してしまいます。

いよいよ泳ぐのが困難になって初めてコーチに訴えるわけですが、仮にその状態が炎症してしまっているなら炎症が落ち着くまでの数週間から数ヶ月はトレーニングの質を相当落とさざるを得ません。

炎症が起きてしまっている状態を一度の治療で完璧に治すようなことはできませんので、何よりも炎症が起きないようにするのが大事なわけです。

何よりも日々の努力

なにかひとつこれだけをやっておけば大丈夫!というようなことはありません。
やれること、やるべきことを毎日しっかりとやっていくしかないんです。

また、トレーニングのみ頑張っていれば速くなるわけではありません。
そのため、今一度、症状が出る前にしっかりと対策を練って努力を積み重ねていきましょう。

  • 症状が出ないようにする。
  • ストレッチというセルフケアには限界があるということを認識する。
  • 違和感を覚えたらすぐにコーチや親に伝える。
  • そしてすぐに治療院へ行く。

トップアスリートほど、日々のケアには時間を割いて症状がない状態を継続させています。

是非そこの努力は惜しまずに頑張っていきましょう。

著者プロフィール

今野 弘章
今野 弘章
自身の元競泳選手の経験や、「アスリートは体の痛いところを治せば良いわけではない」という考えから、

競技中(日常生活)の痛みの改善
「この部位に力を入れられない」といった身体の悩みの改善
通常時、痛み時のトレーニング
日頃のメンテナンス

など、より良いパフォーマンスにつなげるための、治療、指導を行っております。

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