高輪で鍼灸治療院を開いている今野です。
自身が元競泳選手ということもあり、アスリート専門の治療院となっております。
一般的な治療院との違いは、痛みを治すことや硬い部位を緩めるだけではなく、「特定の部位に力が入っていない」ことや「可動域が狭い」あるいは「自覚していない骨格の歪みや筋力不足」などを改善してパフォーマンスアップに繋げることをゴールにしている点です。
今野鍼灸治療院では治療のその先を常にイメージしながら、アスリートの自己実現をサポートしていきます。
当院に最近トレイルランナーの患者さまが増え、皆様に共通している症状のひとつに坐骨部痛があります。
坐骨部痛というのはあんまり聞き馴染みのない言葉で、皆様は「坐骨神経痛」と形容します。
今回は坐骨部痛の原因と当院においての解決策になる考え方、坐骨神経痛との違いについて詳しく解説していきます。
目次
坐骨部痛とは?
坐骨とは椅子に座った時に座面にあたる骨になります。
実際に骨が痛むわけではなく、そこに付着する筋肉が硬い、もしくは引っ張られ過ぎてその部位が痛くなっている状態です。
坐骨に付着する筋肉は以下が挙げられます。
- 半腱様筋、半膜様筋、大腿二頭筋:
股関節の伸展と膝の屈曲、つまり足全体を後ろに下げたり、膝を曲げる働きになります。いわゆるハム、ハムストリングスです。 - 内閉鎖筋、大腿方形筋、上双子筋、下双子筋:
股関節の外旋、つまり足全体を外側に捻る働きです。 - 坐骨海綿体筋:
陰部とを結ぶ筋肉なので、運動とは大きく関係しないためここでは割愛します。
これらのどれかの筋肉が硬くなってしまい、痛みを発生させるほど坐骨を強く引っ張っているのが坐骨部痛です。
坐骨神経痛との違い
坐骨神経というのは腰部・仙骨から始まり、梨状筋というお尻にある筋肉を抜け、途中で総腓骨神経と脛骨神経に分岐して足先まで伸びています。
よって、症状の範囲としては臀部から足先までのどこかだったり、足全体だったり、患者さまそれぞれで異なってきます。
症状としては痛みであったり、痺れであったり、それも様々です。
原因としては坐骨神経が走行しているどこかの筋肉が硬くなってしまい、その硬い筋肉が神経を圧迫することで症状が出てきてしまいます。
よって、運動時に症状が出るとは限らず、起床時の最も身体が硬いタイミングであったり、座っている時間など、症状が出るタイミングも人それぞれなのが特徴です。
重度の坐骨神経痛だと手術の適用ということも考えられますので、まずは整形外科に行って検査、診断を仰ぎ、その結果を通院している施術者に伝えて相談してみるのが良いでしょう。
坐骨部痛と坐骨神経痛の違いは、
坐骨部痛は硬い筋肉が坐骨を引っ張ること。坐骨神経痛は硬い筋肉が神経を圧迫すること
と、理解しておきましょう。
坐骨部痛の『直接的な』原因と『間接的な』原因
症状を作っている原因としては2種類のグループに分けられます。
それは直接的な原因と間接的な原因です。
前者は痛む部位に直接繋がっている筋肉です。例えば坐骨部痛にとってのハムが該当します。
後者は痛む部位とは離れたところに位置する筋肉です。こちらは次の項で述べていきます。
直接的な原因
ではまず直接的な原因を作っている筋肉を解説します。
トレランにおいては山を登り降りするので、様々な筋肉を使います。
その筋肉の代表例として上記1の筋肉(半腱様筋、半膜様筋、大腿二頭筋)が挙げられます。
これらの筋肉をあわせてハムストリングス、もしくはハムとも呼びます。
上記2(内閉鎖筋、大腿方形筋、上双子筋、下双子筋)の筋肉も関与していることが多いですが、筋肉としてはハムより小さいので、硬くなった時の坐骨を引っ張る度合いとしてハムの方が大きくなると言えます。
また、トレランの下半身の動きとして登って降りて走ることを考えると、より動きとして負担がかかりやすいのもハムと言えます。
よって、坐骨部痛の直接的な痛みを発生させている筋肉としては、
1番の原因:半腱様筋、半膜様筋、大腿二頭筋(ハム)
次の原因:内閉鎖筋、大腿方形筋、上双子筋、下双子筋(上記2)
と言っていいでしょう。
実際、当院の患者さまのお身体を触診すると決まってハムが硬くなっています。
問題は、ハムさえ緩めれば坐骨部痛が改善するのか?という点ですが、残念ながら多くの場合そんなに簡単には改善しません。なぜなら間接的な原因が残っているからです。
坐骨部痛の『間接的な』原因
痛みを発症させている部位に原因がないことが多々あります。
痛みの箇所の他に硬い筋肉が存在し、痛くなっている部位を引っ張ってしまうことで痛みが発症することによるものです。
僕はこれを間接的な原因と形容しています。
では坐骨部痛を作り上げてしまっている間接的な原因とはなんでしょうか。
これは患者さまごとに異なりますが、多くのトレイルランナーの患者さまに共通しているのは大腿四頭筋です。
大腿四頭筋は太ももの前にある筋肉で、主に膝を伸ばす働きがあります。
トレランにおいては、登りでも下りでも作用します。
特に下りでは実は筋肉への負荷が非常に強いです。
体重が重力と共に足にのるので、大腿四頭筋が即座に働き、体重を受け止めなくてはならないからです。
それにより筋肉はどんどん硬くなっていきます。
大腿四頭筋が硬くなるとその分大腿骨が前方に引っ張られてしまいます。
大腿骨が前方に引っ張られるとそれだけで後方にある筋肉が前方に引っ張られてしまうことになります。
そこでハムが柔らかければその引っ張りに耐えられるかもしれませんが、多くの場合でハムは硬いので、坐骨部が引っ張られ過ぎて坐骨部痛が発症してしまう事に繋がります。
坐骨部が痛いからと言って患部やそれに繋がる筋肉をマッサージして緩めて欲しいというのは感情的には理解できますが、解剖学的、運動力学的にはそこだけを攻めても不充分で、症状が改善しない、すぐに再発してしまうというのはこういった理由にあります。
その他でハムと同じ筋膜に属する筋肉として、脊柱起立筋や腓腹筋、アキレス腱などが硬くなれば筋膜を通して坐骨部をさらに引っ張ってしまう原因にもなります。
「痛い箇所のマッサージには意味がない。痛みの改善に必要なマッサージのポイント」としても記事を書いていますので、こちらもあわせて参考にしてみてください。
痛い箇所のマッサージには意味がない。痛みの改善に必要なマッサージのポイント
https://konno-chiryo.com/massage-point/
こういった間接的な原因となる筋肉を見つけて緩めたうえで、ハムをしっかりと施術すると改善に近づいていきます。
大腿四頭筋(間接的な原因)の負担を減らすには
下りで大腿四頭筋に負担が来るのは必然的です。
しかしながら以下のように身体の使い方ひとつで多少負担を減らすことが出来ます。
上半身の姿勢
上半身の姿勢を前のめりにさせず、胸を張ってなるべく「気をつけ」の姿勢に近づけます。
よって、頭も下を向けずに、なるべく顎を引き、目線だけを落として足元を見るようにします。
そうすることで体重移動の際の重心が変わり、大腿四頭筋への負担を減らせます。
腕振り
走る際は腕を振らないとなかなか速く走れません。
腕を振ることで体重移動のサポートをしているからです。
ただトレランの下りにおいて腕を振ってしまうとその分身体が前に進みすぎてしまい、その分大腿四頭筋への負担が強まってしまいます。
下りの時はなるべく腕を振らずに降りていくよう心がけましょう。
動きの特性を考えることと身体全体を見ることが重要
以上がトレイルランナーを苦しめている坐骨部痛に関しての当院での考え方です。
そのスポーツ特有の動きもしっかりと考えた上で、痛む部位だけではなく身体全体をみて施術していくことが重要です。
特にトレランは山の起伏が不規則ゆえ、動きも不規則になり、それが長時間続きます。
今回例えに出したのは足の前後のみの動きです。
実際には左右・斜めへの荷重が加わりますので、身体への負担というのはその分複雑化します。
症状が改善しない方は是非身体全体をちゃんとみてくれる治療院を探してみましょう。
著者プロフィール
-
自身の元競泳選手の経験や、「アスリートは体の痛いところを治せば良いわけではない」という考えから、
競技中(日常生活)の痛みの改善
「この部位に力を入れられない」といった身体の悩みの改善
通常時、痛み時のトレーニング
日頃のメンテナンス
など、より良いパフォーマンスにつなげるための、治療、指導を行っております。
- 対処法2024.09.25成長期におけるスポーツ貧血の原因とその対策
- 鍼灸2024.08.07鍼灸に関するQ&A
- その他2024.07.24筋肉の痛みが発生するメカニズムと、治療院に行っても症状が改善しない原因
- トレーニング2024.06.26なぜクロールのキックは必要なのか?キックの練習法とコツ