肩の痛みへの予防と、痛みが出た時の対処法〜スイマー、トライアスリート向け〜

高輪で鍼灸治療院を開いている今野です。

自身が元競泳選手ということもあり、アスリート専門の治療院となっております。

一般的な治療院との違いは、痛みを治すことや硬い部位を緩めるだけではなく、「特定の部位に力が入っていない」ことや「可動域が狭い」あるいは「自覚していない骨格の歪みや筋力不足」などを改善してパフォーマンスアップに繋げることをゴールにしている点です。

今野鍼灸治療院では治療のその先を常にイメージしながら、アスリートの自己実現をサポートしていきます。

多くのスイマーやトライアスリートが悩む症状のひとつとして肩の痛みがあります。
そしてその痛みに対してストレッチをして自力で治そうとする方も多いです。
しかし実際には一定以上の痛みになってしまってからストレッチだけで自力で治すのは現実的ではなく、難しいケースがほとんどですし、かえって痛みが悪化するケースもあります。

今回は痛みが出ないようにするために普段から気をつけることと、痛みが出てしまったらどうすべきなのかについて詳しく解説していきます。

痛みの原因

まずは痛みの原因についてです。
肩の前面の痛みに繋がってしまうケースとして最も多いのは胸筋の硬さです。
なぜ胸筋が硬くなってしまうかというと、

  • 背中ではなく、胸筋優位で力を入れて泳いでいる
  • デスクワークの負担

というのが多くみられます。

上記2つに加え、誰でも加齢と共に、四十肩・五十肩と呼ばれる肩関節周囲炎のリスクも抱えています。
人間は二足歩行動物に進化し、その時点で腕の重みだけで肩が凝ると言われています。
つまり、何もしていなくても自然と肩は凝るし、加齢と共に肩関節周囲炎のリスクは上がるのです。
その中で運動をし、運動の負担をケアしていなければ肩を痛めるのも当然と言っても良いのかもしれません。

背中ではなく、胸筋優位で力を入れて泳いでいる

クロールにおいて手が入水した後、キャッチしてからプルにかけて複数の筋肉が働きます。
その中のひとつに胸筋も含まれるので、胸筋を使うこと自体は間違っていません。

大人から水泳を始めた方に多いのは、このキャッチからプルにかけての動作において、背中をほとんど使わずに胸筋を中心にして行う方がいらっしゃいます。
そうすると、背中を使っていない分の負担が胸筋へと積み重なり、胸筋が硬くなってしまいます。

これはテクニックの話なので、簡単に「では背中を使って泳ごう」と思って泳げるわけではなく、プライベートレッスンなどを通じて手取り足取りその方法を教わり、何度も繰り返して練習を行うことで背中が使えるようになります。

大変な道のりではありますが、これを避けていると肩の痛みに繋がりやすくなりますし、タイム向上のチャンスを失うことにもなります。
ぜひ、「クロールは背中で泳ぐ」というのをマスターできるようチャレンジしてください。

デスクワークの負担

デスクワークの負担に関しては、腕が身体よりも前にある状態でパソコン作業を行うので、胸筋が縮んだ状態で行います。
その時間の分だけ比例して、縮んだ筋肉のまま硬くなってしまいます。
また、指をよく使うことでも筋膜を通じて胸筋は硬くなります。
よって、デスクワークがメインの仕事の方は「肩の痛み予備軍」に属していると思っておいたほうがいいです。

硬くなった胸筋により、肩関節がやや前面に押し出され(俗に言う巻き肩)、その状態で泳ぎ続けることで他の筋肉の腱や靭帯が不必要に骨と擦れ合ったり、関節面同士が擦れることで炎症に繋がってしまいます。

正しいストレッチで予防しよう

最も一般的で、手軽に行える予防方法がストレッチです。
ただ、大人になってから水泳やトライアスロンを始めた方々は胸筋のストレッチを知らない方や、間違って行っている方がとても多いです。
ここで胸筋のストレッチを正しく知り、毎日行ってください。

ただ、あくまでもストレッチはセルフケアの一環であり、既に痛みがある場合はストレッチで痛みを治すことは難しいので、すぐに治療院で施術を受けるようにしましょう。
また、ストレッチさえ行っていれば今後痛みに悩まされないというわけでもありません。
それ以上の負荷が溜まれば胸筋は硬くなりますし、肩の痛みの原因として多いのは胸筋ですが、胸筋だけが原因ではありません。
ストレッチは万能なセルフケアでなく、手軽に行えるセルフケアの1つというだけです。
ストレッチの間違った認識と正しいストレッチを行う上でのポイントとしてストレッチについても詳しく書いてますので、あわせて読んで下さい。

ストレッチの間違った認識と正しいストレッチを行う上でのポイント
https://konno-chiryo.com/stretch-point/

胸筋のストレッチ方法

壁に対して正面に立ち、手を壁につきます。
肘が肩よりも少し上に位置するところが理想的ですが、これは身体の柔軟性とも関わってくるので、この位置関係は試行錯誤をしてより伸ばしやすい腕の高さを見つけましょう。

右手を壁についた場合、左に45°身体を回転させます。

身体に対しての正面に身体を預ける(体重を前にかける)と、肩から胸にかけてストレッチされるはずです。

右側の肩から胸、僕の左手が覆っている辺りが伸びていれば正しいやり方になります。

痛みが出た時の対処法

痛みが出てしまった場合は、ストレッチを含めたセルフケアは全て一旦中止し、すぐに治療院で施術を受けるようにしましょう。
ご自身で判断すると悪化するケースも多くみられます。

一度痛みが出てしまうと、改善するまでに数週間から数ヶ月要する場合もあります。
それくらい、肩の構造というのは複雑ですし、間違ったフォームでの動作というのは肩への負担となります。

症状との付き合い方は人それぞれ個人差があります。
痛みの程度やご自身の性格にもよります。

  • ある程度の痛みならトレーニングをしながら施術を受けつつ、徐々に良くしていく方
  • 少しの痛みも嫌なので、腕や肩を使うトレーニングは一旦やめて他の種目でトレーニングをしつつ、施術を受けてなるべく早く良くしていく方

など、色々です。
ご自身の症状の度合い、痛みの程度、考えや性格と、それに対する施術者の考えを聞いて最終的に判断するようにしましょう。

自力で痛みを改善させていくのが難しい理由

自力で痛みを改善させていくのが難しい理由は以下の2つが挙げられます。

  • 原因となる筋肉を見つけるのは困難
  • 痛みが炎症を伴っているかもしれない

原因となる筋肉を見つけるのは困難

一度痛みとして症状が出てきた場合、多くは原因となる筋肉が存在しています。
その筋肉はひとつとは限らず、複数存在している場合が多いです。
そのうちのひとつが胸筋になるわけですが、胸筋だけではありません。
よって、痛みが出てしまった状態で胸筋だけをストレッチしても、他の原因となっている筋肉を見つけられていないなら痛みとしてはなかなか引いていかないことでしょう。

また、その原因となっている筋肉をご自身で見つけることはとても難しいです。
なぜならその原因となっている筋肉には硬いこと、疲労が溜まっていること、よく使っていることを自覚していない筋肉も含まれるからです。
それを自覚していないなら、なかなか自分で重点的にセルフケアを行うというのは難しいでしょう。

痛みが炎症を伴っているかもしれない

その痛みに炎症が隠れているのかどうか、それは今まで炎症を伴う怪我をよく経験してきた人ならおそらく気づけることでしょう。
しかし、今回が初ならそれが炎症を伴うのかどうか、判断はつきません。
もし炎症しているのに痛いからと言って良かれと思ってストレッチをしていたら、悪化する可能性があります。
炎症を起こしている部位というのは、基本的に何もしてはいけないのです。
マッサージや、指圧は勿論、鍼もストレッチをしてはいけません。むしろ悪化します。

これは捻挫をイメージしたらわかりやすいです。
酷く足首を捻ってしまい、患部が腫れて熱を持っています。
その状態で足首をストレッチしたら痛いのは想像がつくことでしょう。
炎症がある場合は、その部位はなるべく使わずに安静にしていることが1番の治療方法です。
しかし、そこの判断を間違えてしまい、炎症部位をストレッチし続けていれば改善するどころが悪化をしてしまいます。
だからこそ、痛みが出たらまず治療院に行く必要があるのです。

当院での事例

ではここで当院においての実例をひとつご紹介致します。

40歳代、女性、トライアスリートの方。

半年前に泳いでいたら、左肩が痛くなり始めたため、数日泳ぐのをやめてみたけど、痛みは引かない。
我慢すれば泳げるので、痛みを我慢したままトレーニングを続けた。
あわせて、我流で痛い部位をストレッチし始めた。

しかし、徐々に痛みは悪化し、トレーニング前は市販の痛み止めを飲むようになった。
日常生活にも支障が出始めて、例えば洗濯物を干す動作や下着をつける動作が痛くて困難になった。

治療院には行ったことがなかったので、その時点で治療院に行くという考えがなかったことに加えて、「そのうち治るだろう」という考えもあった。

しかし、時間とともに、痛み止めも効かなくなり、痛くて泳げないし、手は肩から上には上がらなくなり、寝てる間も痛みで起きてしまう状況となる。

その時点でチームメイトが気付き、治療院へ行くことをすすめられ、当院へ来院。
明らかに炎症のある症状で、痛みはあるけど泳げる状態になるまで3ヶ月(1回/隔週での来院)を要した。

この方の場合、

  • 半年間もの長い期間、我慢を続けて治療をするのが遅くなった
  • 痛む部位をストレッチしてしまった
  • 痛み始めた当初既に炎症があったかどうかはわからないものの、来院時には炎症のある状態であった

ということです。

逆に痛み始めた頃にすぐに治療をスタートしていれば、こんなに酷くはならなかったかもしれませんし、それはそのまま治療期間が短くて済むであろうということでもあります。

歯が痛くなった時に我慢をし続ければもっと悪化したり、自力で治そうとしても無理なのと同じように、身体のどこかに痛みがあるならそれは専門家に委ねるべきです。

痛くならないようにすることが最重要

一度痛くなってしまうと改善するまでに本当に時間を要しますし、誰でも痛いのは嫌です。
ただでさえ二足歩行になった人間として多くの方が肩関節周囲炎に悩まされるのが普通です。
それに加えてデスクワークの多さが背景にあり、スイマーやトライアスリートはさらに水泳の負担が加わります。
肩が痛くならないように日頃からセルフケアをし、理想は定期的に治療院で施術を受けるようにして予防しましょう。

著者プロフィール

今野 弘章
今野 弘章
自身の元競泳選手の経験や、「アスリートは体の痛いところを治せば良いわけではない」という考えから、

競技中(日常生活)の痛みの改善
「この部位に力を入れられない」といった身体の悩みの改善
通常時、痛み時のトレーニング
日頃のメンテナンス

など、より良いパフォーマンスにつなげるための、治療、指導を行っております。

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