高輪で鍼灸治療院を開いている今野です。
自身が元競泳選手ということもあり、アスリート専門の治療院となっております。
一般的な治療院との違いは、痛みを治すことや硬い部位を緩めるだけではなく、「特定の部位に力が入っていない」ことや「可動域が狭い」あるいは「自覚していない骨格の歪みや筋力不足」などを改善してパフォーマンスアップに繋げることをゴールにしている点です。
今野鍼灸治療院では治療のその先を常にイメージしながら、アスリートの自己実現をサポートしていきます。
僕の治療院に来てくださる患者さま(大人になってから運動を始めた方々)のお話を伺うと「スピードを上げるようなトレーニングが全体の70%前後と、追い込む」練習に多くの時間を割いております。
しかし、それではベース(土台)となるトレーニングが不足しており、トレーニングを乗り切れるだけの基礎体力もなく、筋肉の強さもなく、おそらくテクニックも不充分となり、怪我に繋がってしまいます。
また、追い込んでトレーニングをしている割にタイムに繋がっていない、という結果になりがちです。
これらは、「ベーストレーニング」が不足しているために起こっております。
そこで今回は、
- ベーストレーニングとはなんなのか?
- どのようにトレーニングに盛り込めば良いのか?
- なぜ怪我につながってしまうのか?使いすぎとはどういうことなのか?
を詳しく解説していきます。
よく身体が痛くなったり、トレーニング内容をどう組んでいいかわからない方にとっては必ず知っておかなければいけない内容です。
目次
トレーニングにはベースが必要
ベースとは、言い換えれば「基礎」です。基礎体力と言っても良いです。
数学で例えるなら、足し算、引き算、掛け算、割り算がベースになり、これらを理解しているからこそ二次関数を解けるようになります。
足し算等を知らないまま二次関数の勉強をしようと思っても無理があります。
トレーニング理論としてはよく以下のような三角形を用います。
この図が表すものは
- 底辺=ベース
- 頂点=スピードを維持する能力
という表現であり、それはそのままトレーニング内容にも反映されます。
マラソンで言えば「目的とするスピードを維持できる能力」という表現が正確です。
このベースがなければスピードを上げてもすぐに疲れてしまったり、疲れても気合と根性で走り続ければ(ランニングの場合)、どこかの筋肉が硬くなり、痛みへと発展してしまいます。
つまり、好タイムも狙えませんし、怪我のリスクを抱えているということです。
三角形を用いた例:ベースが短い(レベルが低い)
左側が理想とする正三角形になります。
底辺をベースとし、頂点を「トップパフォーマンス」とします。
種目や距離によってスピードを出したり、そのスピードを維持したり、と表現が異なりますので、総合的な意味合いで使うこととします。
右の三角形は正三角形ではあるものの、ベースが短い(レベルが低い)ので、頂点も高くなりません。
三角形を用いた例:極端に特化
オリンピック選手等の一部のアスリートを除き、この右の三角形になることは望ましくありません。
かなり極端で、「なにかに特化した選手」と言えます。
一般的な趣味で運動をしている大人はこういった形を目指すべきではありません。
三角形を用いた例:底辺が大きい
底辺が大きく、頂点が低い人も時折います。
このパターンはベーストレーニングが多すぎて、スピードを出すトレーニングが足りないので、頂点が高くなっていきません。
ベーストレーニングの内容
一概にトレーニング内容について「時間配分的にベーストレーニングは○○%である」ということは言えません。
個々のアスリート(レベルや年齢など)、チーム、時期、トレーニングサイクル、種目など、様々な事柄によって異なるからです。
ここでは「おおよそこのくらい」とざっくりした割合でまずは理解していきましょう。
ベーストレーニングに含むのは、ウォーミングアップ、ドリル、イージー、クールダウンです。
メインセットとなるトレーニング、例えばインターバル、レースペース、ダッシュのようなものはベースには含まれません。
割合で言うと、ベーストレーニングが60~70%、メインセットが30~40%となります。
これは1回の練習の中でもそうですし、1週間の練習内容の割合としてもこのくらいを設定していくことが理想です。
繰り返しますが、これはあくまでもおおよその目安です。
例えば時にロングディスタンス系のアスリートでも200mのほぼダッシュのようなトレーニングも取り入れるはずです。
そうすると距離としてはそんなに多くやれませんので、その場合はベースが80%、200mダッシュの配分が20%となります。
ベーストレーニング中のペース配分に関して
ベーストレーニングを行っている時のペース配分というのは、「喋りながらでも余裕」というようなペースです。
例えばそのペースで50kmや100km(極端ですが)でも走ろうと思えば走れるベースがあって初めて、「42.195kmのフルマラソンで好タイムに挑戦できるベースがある」ということになります。
競泳におけるトレーニングの実例
僕は競泳出身なので、競泳の練習内容を例にしてみます。
ベーストレーニング:トータル 3500m(トレーニング全体の70%)
- ウォーミングアップ 400m
- キック 500m
- プル 1800m
- ドリル 500m
- イージー 100m
- クールダウン 200m
メインセット:1500m(トレーニング全体の30%)
1日のトータル:5000m
多少トータルの距離が変わったり、練習内容が変わっても、おおよそこういった練習を小学校高学年から毎日のように行っていました。
プラス、小中学生時代だと陸上でのトレーニング、高校に入ってからはウェイトトレーニングが加わります。
これだけ「基礎」に時間を費やし、体力としてもテクニックとしても身についてこそ、「スピード」(もしくはスピードを維持する能力)が上げられるわけです。
※ランニングやバイク(自転車)、などの他の種目において、その種目ごとのドリルや特殊な練習方法(競泳で言えばキックやプル)があったとしても、まずは「ベース」として全部含めて考えましょう。
怪我に繋がるパターン
さて、それでは皆様のトレーニングはいかがでしょうか?
僕の治療院に来てくださる患者さま(大人になってから運動を始めた方々)のお話を伺うと、ここまでベースに時間を割いていません。
多くはインターバルのような、いわゆる「追い込む」ような練習が多いです。
ベースとインターバル練習の割合が逆転していて、スピードを上げるようなトレーニングが全体の70%前後になるようです。
それだとトレーニングを乗り切れるだけの基礎体力もなく、筋肉の強さもなく、おそらくテクニックも不充分となり、怪我に繋がってしまいます。
自分の持っている「ベース」以上のトレーニングをする、つまり「使い過ぎ」となるわけです。
これを表したものが次の図になります。
そして、追い込んでトレーニングをしている割にタイムに繋がっていない、という結果になりがちです。
もしくは、ある程度まではタイムも伸びていくかもしれませんが、そこで頭打ちとなってしまいそれ以降なかなかタイムが伸びない、ということになる方も多いです。
ベーストレーニングは地味で、単調で、飽きやすい方にとっては苦痛かもしれません。
しかし、より速いタイムを求めるなら、怪我を回避したいならベーストレーニングは必須です。
スポーツは日々の積み重ね
以上、ベーストレーニングについて、なるべくわかりやすくお伝えしました。
コーチやトレーナーの勉強内容になるともっと細かく分類されていきますが、まずベースの重要性を理解するためという観点からこのような内容を書きました。
例えば10歳から22歳まで競泳の選手コースで頑張った場合、約12年間のトレーニング歴の約60~70%がベースです。
その間、コツコツと毎日のようにトレーニングを積み上げていくわけです。
そこに近道や楽な道は存在しません。
大人になってから運動を始めた方々の多くはなぜか「追い込めばその分速くなる」と思いこんでいる方が多いように見受けられます。
勿論追い込めばその分速くなりますが、それを支えるベースがなければいけないということを忘れてはいけません。
ぜひ、トレーニング内容やご自身の能力について一旦振り返って、見直してみてください。
著者プロフィール
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自身の元競泳選手の経験や、「アスリートは体の痛いところを治せば良いわけではない」という考えから、
競技中(日常生活)の痛みの改善
「この部位に力を入れられない」といった身体の悩みの改善
通常時、痛み時のトレーニング
日頃のメンテナンス
など、より良いパフォーマンスにつなげるための、治療、指導を行っております。
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