汗をかくのになぜ痩せない?! 〜代謝と発汗量の話〜

高輪で鍼灸治療院を開いている今野です。

自身が元競泳選手ということもあり、アスリート専門の治療院となっております。

一般的な治療院との違いは、痛みを治すことや硬い部位を緩めるだけではなく、「特定の部位に力が入っていない」ことや「可動域が狭い」あるいは「自覚していない骨格の歪みや筋力不足」などを改善してパフォーマンスアップに繋げることをゴールにしている点です。

今野鍼灸治療院では治療のその先を常にイメージしながら、アスリートの自己実現をサポートしていきます。

「よく汗をかくのになかなか痩せられない」というお悩みの方は多くいらっしゃいます。

それは、「汗をかくから代謝がいい、それなら痩せやすいはずだ」という誤った認識から来ています。
実際には、「汗をかく=代謝が良い」というわけではありません。

そこで今回はまず「痩せる」ということを簡単に説明しつつ、発汗と代謝の関係性を詳しく解説していきます。

痩せるとは?

痩せるために必要なのはシンプルに「摂取カロリー < 消費カロリー」というカロリーコントロールを日々努力していくだけです。
これが逆に「摂取カロリー > 消費カロリー」なら脂肪が増えていき太っていきます。

この「消費カロリー」に代謝が深く関わってきます。
それ故に「汗をよくかく人は代謝が良いのだから痩せやすいはずだ」という認識に繋がっているのかもしれません。
しかし、よく汗をかく人の中には代謝が良い人も勿論いますが、代謝が良くない人もいます。

そこで次の項ではまず発汗について詳しく解説していきましょう。

発汗の役割とメカニズム

発汗の主な役割は体温調節です。
汗をかいた後、その水分が蒸発する際に気化熱として身体の熱を奪っていくことで身体を冷やしてくれます。
しかし、同じ環境下でも汗をかく人とかかない人(汗の量が多い人、少ない人)がいます。

主な理由は以下の4つになります。

1.汗腺の数

汗腺とは汗を分泌する線で、人によってその数が異なります。
元々生まれ持った数も違いますし、成長期にたくさん汗をかいて育ってきた人ほどその数は多いものとされています。
当然汗腺が多ければその分汗を分泌するポイントが多いということにもなるので、必然的に汗をかきやすい人と言えます。

2.交感神経が敏感な人

わかりやすいのは緊張した時にかく手汗や脇汗がいい例です。
これは緊張すると交感神経が働き、暑いと感じているわけではないのに汗が出てきます。
交感神経が敏感になりやすい人や元々敏感な人というのは、自覚しているほどの緊張感ではないのにも関わらず、ちょっとした緊張やちょっとした気温の変化を感じることでその反応として汗をかきます。

交感神経の反応による発汗のメカニズムとしては、緊張、不安、驚きなどの心理的ストレスを脳(主に大脳皮質や扁桃体)が感知します。
その情報は脳にある視床下部※という所に伝わります。
※視床下部:自律神経(交感神経と副交感神経からなる)を司っている部位

交感神経とは戦闘モード、副交感神経とはお休みモードのことなので、心理的ストレスに対しては交感神経が反応します。
その時にアセチルコリンという神経伝達物質が分泌され、全身の汗腺に作用することで発汗します。

なぜ交感神経が優位になると発汗するのか、その理由の1つに狩りや戦をイメージするとわかりやすいです。
動物や人間を眼の前にして、武器を手にして戦う時に、手のひらが乾いていてカサカサだと武器を滑り落としてしまう可能性があります。
汗をかいてそれが滑り止めの役割を果たしてくれることでしっかりと武器を握って落とさないようにしてくれている、という本能的な理由です。

3.体型

筋肉が多い人ほど代謝が良い、つまり熱を生みやすいので、その熱を逃すために汗をかきます。
逆を言うと、筋肉量が少ない人は汗をかくほどの放熱の必要性がない場合(環境下)は汗をあまりかきません。

また、脂肪量にも左右されます。
脂肪が多い人は脂肪が断熱材のような役割をしてしまい、体内に熱がこもりやすくなります。
筋肉量に関係なく、体内の熱をうまく外に逃せないので、そこまで暑い環境ではなかったとしても汗をかいている可能性があります。

4.ホルモン

女性ホルモンと言われるエストロゲン(卵巣から分泌される)による作用の1つとして、血管拡張作用があります。
それにより皮膚、血管からの放熱がより進むので、汗をかくまでもなく体温調節が可能な場合があります。

代謝とは?

よく「代謝」という言葉を耳にすると思いますが、正確には以下の3つが存在します。

1.基礎代謝

これは人が生きているだけで消費されるエネルギーのことです。

例えば1日寝たきりだったとしても心臓を含めた内臓は活動してくれていますし、呼吸、体温を維持するだけでもエネルギーは使われます。
平均的な基礎代謝は成人男性で約1,500kcal、成人女性で約1,200kcalと言われています。
年齢や筋肉量、体脂肪量で変わってきます。

フィットネスクラブやスポーツセンター等にInBodyの体組成を測れる体重計が置いてあったりしますので、測定したことがない方は測定してみるとご自身の基礎代謝がどれくらいなのかわかります。

2.活動代謝

文字通り、身体を動かした際に消費されるエネルギーのことです。
運動だけではなく、通勤時の徒歩、掃除、料理など、どのような内容であっても身体を動かしたらエネルギーを消費します。

3.食事誘発性熱産生

食事をすると食べたものを内臓が消化、吸収、代謝してくれるので、その際に消費されるエネルギーになります。

3つの代謝の割合と、消費カロリーの関係性

仮に意図的な運動をしなかった場合の消費エネルギーのおおよその割合としては、
基礎代謝=60%
活動代謝=20~40%
食事誘発性熱産生=10~15%
と言われています。

活動代謝に幅があるのは通勤時間の差であったり、家事や仕事内容(デスクワーク、外回り営業、飲食店のような動く仕事等)で変わってくるからです。

これら3つの代謝により消費した合計のカロリーがいわゆる一般的に認識している「1日の消費カロリー」のことになります。

最初の項でお伝えした摂取カロリー < 消費カロリーという状況を作ることができれば、痩せていく計算となります。(仮に1日で食べた食事のカロリーが2000kcalで、消費カロリーが2000kcalより少しでも上であれば痩せていく)
そのため、代謝が良い(高い)状況をつくれれば、消費カロリーも増加し、痩せやすさにつながって行きます。

「代謝が良い」とは??

その痩せやすさに繋がる「代謝が良い」とは以下の3つの状況を指します。

1.エネルギー消費量が高い

これは上記でいうと基礎代謝と関わりが深いです。
筋肉量が多かったり、内臓の働きが良いとその分エネルギー消費量は高くなります。

1kgの筋肉が1日に消費するカロリーは13~20kcalと言われており、対して脂肪は4~5kcalと言われています。
つまり、より筋肉が多い人ほど1日で消費している基礎代謝によるエネルギーは高いということになります。

内臓でいうと、疲労を起こしていない元気な内臓ほどよく働いてくれるので、エネルギー消費が高くなります。
特に肝臓と脳は消費カロリーが高いです。
肝臓は解毒、栄養の変換、糖新生といった役割を担っており、基本的に1日中フル稼働してくれています。
基礎代謝のうちの20~30%を肝臓が消費しています。
脳は安静時であっても活動は止まらない器官なこともあり、こちらも消費が高く、基礎代謝のうちの10~20%を消費すると言われています。

参考までに以下に筋肉と臓器の基礎代謝に占める割合を記載しておきます。

  • 筋肉:15~20%
  • 肝臓:20~30%
  • 皮膚・骨:15%前後
  • 脳:10~20%
  • 心臓:8~10%
  • 腎臓:5~7%
  • 脂肪:3~5%

まとめると、筋肉量が多く、内臓が元気な人ほど「代謝が良い」、つまり基礎代謝の消費カロリーが高いと言えます。

内臓を元気な状態でキープすることは意外と大変な作業です。
食べ過ぎ、寝る直前の食事を避けること、消化に時間のかかる食材、脂っこい食事をなるべく避けることで内臓の負担を減らすことができます。

内臓疲労が起きている状態とは?

内臓疲労が起きている場合には以下のような症状が良くあります。

  • 呼吸が浅い
  • 便通がいつもより良くない
  • なんとなく胃が重たい・違和感がある・痛い
  • お腹を触ると硬い

こうなるとご自身の努力だけで内臓を回復させるのは難しいレベルなので、鍼灸院等の施術を受けるようにしましょう。

2.血流の良さ

次に血流の良さも関係してきます。

代謝が良いということは、栄養素を燃やしてエネルギーを作ることです。
そして、燃やすためには酸素が必要です。

その酸素を全身に運搬するためには血流が必要です。

つまり血流が良いと必要な酸素を素早く効率的に全身へ運搬できるので、代謝の良さに繋がります。

また、代謝で利用した老廃物の回収に関しても忘れてはいけません。
代謝が進むと二酸化炭素を含む老廃物が発生し、血流がそれを回収して内臓へ運んでくれます。
血流が悪いとその老廃物や疲労物質は発生した部位に残ってしまい、代謝の妨げになります。

3.体温の高さ、その維持

血流とも関係してきますが、血流が良いと熱(暖かさ)を手先や足先を含めた全身に運んでくれます。
本来は全身が熱を必要としており、その熱を維持するために血流の良さが必要不可欠ということです。
熱を作り出すのは主に筋肉、肝臓、脳が代謝として作り出しますので、熱(平熱)が高い人ほど代謝が良いというわけです。

生まれつき平熱がやや低い(35℃台)方や、体温を上下させるホルモンを分泌する甲状腺の働き次第では体温を上げたくても上げられない方もいらっしゃいます。
体温に関しては必要以上に努力すると疲れて嫌になってしまうかもしれませんので、「代謝と関係しているんだな」くらいの理解で頭の片隅に置いておくくらいにしておきましょう。

痩せるのに必要なのは発汗量ではなく、消費カロリー

代謝と発汗についてそれぞれ詳しく解説していくと、汗っかきな人が『必ずしも』代謝が良いというわけではないことがわかります。

代謝が良いから体内の熱産生が高く、それを体外に放出すべく汗をかく人がいる一方で、
代謝とは関係なく自律神経や脂肪量の関係性で汗をかく人もいます。

確かに、「汗をかくから代謝がいい」と言われる方が多くいらっしゃいますが、それは誤った認識です。
人間の身体は非常に複雑にできているので、そんなに簡単にひと言で1つの事象を片付けることは出来ません。

もしこれを読んでいるあなたが汗っかきな人で痩せたいと思っている、且つ、汗っかき故に代謝が良いと信じ込んでいるなら、まずは汗と代謝について正しい知識を入れましょう。

痩せるために必要なのは発汗量ではなく、摂取カロリー以上の消費カロリーです。
本当に痩せるためには何が必要なのかを理解した上でダイエットに取り組みましょう。

著者プロフィール

今野 弘章
今野 弘章
自身の元競泳選手の経験や、「アスリートは体の痛いところを治せば良いわけではない」という考えから、

競技中(日常生活)の痛みの改善
「この部位に力を入れられない」といった身体の悩みの改善
通常時、痛み時のトレーニング
日頃のメンテナンス

など、より良いパフォーマンスにつなげるための、治療、指導を行っております。

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